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2020/09/18(金)

8月5日 第12回CNVFAB(コンビファブ)研究会が開催されました(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社様)

2020年8月5日、オンラインにて、「やわらかものづくり革命共創コンソーシアムCNVFAB(コンビファブ)第12回 勉強会(講演会)を開催し、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社様より、「ものづくりを取り巻く主要な潮流」と題して、重田雄基氏・吉本陽子氏からご講演を賜りました。

演題「ものづくりを取り巻く主要な潮流」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
副主任研究員 重田雄基氏
主席研究員  吉本陽子氏
不確実性、サプライチェーン寸断リスクの高まり
 米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の拡大などにより、世界の不確実性はかつてないほど高まっています。また、日本の製造業は20世紀末からグローバル・サプライチェーンを発達させており、特に中国への依存度が高まっています。不確実性の高まりにより、グローバル・サプライチェーンの寸断リスクが顕在化しています。その結果、これまで重視されてきた効率性だけでなく、サプライチェーンが寸断されたらすぐに他で代替して再構築する「レジリエンス」が注目されつつあります。
 コロナ禍により世界規模でほぼ同時期に「人」と「モノ」の移動が厳しく制限されるようになりましたが、「情報」と「カネ」の移動はなお可能であることから、3Dプリンターを用いて不足している医療機器やパーツを生産したり、サプライチェーンの寸断を補完したりする動きが加速しています。たとえば、3Dプリンターによるオンデマンド生産代行サービスや、3Dプリンターによる緊急性の高い重要部品の製造支援など、レジリエンスを高める手段として3Dプリンターが使用されています。CNVFABの分散型製造という概念は「レジリエンス」に適合しており、次世代のサプライチェーン構築において重要になってくると考えられます。
Society 5.0、インダストリー4.0、CPS
 第5期科学技術基本計画で提唱されたSociety 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたCPS(Cyber Physical System)により、経済発展と社会的問題の解決の両立をめざします。特に、新たな価値はサイバー空間で生まれるとする点は、生産活動における大きな転換点といえるでしょう。また、製造業分野ではインダストリー4.0がよく知られていますが、その実現には通信構造やサイバーセキュリティ、データ保護などの標準化が必要になります。
 これまで経験則が重視されてきた材料科学の分野も情報産業化が進んでいます。マテリアルインフォマティクスが進展しており、将来的には量子コンピュータの適用が予想されます。また、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進め、徐々にすり合わせや検証を重ねていくというアジャイル開発が、ものづくりにおいても重要になってくるでしょう。さらに、サイバー空間におけるものづくりでは、信頼チェーンの構築といったセキュリティがきわめて重要かつ不可欠になります。以上のような、サイバー空間で価値が生まれることを前提としたプロセスイノベーションはSociety 5.0における研究アプローチのあるべき姿と思われ、さらに推進していく必要があると考えられます。
体験価値の高まり(モノからコトヘ)
 日本は欧米と比較して、第4次産業革命の進行が遅く、デジタル技術とデータを活用した付加価値の高い製品・サービスを生み出し切れてはいません。デジタル経済の特質から、データが価値創造の源泉になり、時間・場所・規模の制約を超えた経済活動が可能になり、経済活動の主体間の再構築が必然になります。これまで「モノ」の売り切りが中心であった製造業のビジネスモデルにも、大きな変化が見られ始めています。
 その例として、ある企業は高い機能・性能を有する農業用ロボットを販売するのではなく、ロボットを貸し出し実際の収穫量から手数料を得るビジネスモデルを構築しています。その際、ロボットの使用によりさまざまなデータを収集できる利点を生かして更なる付加価値を創造するサイクルを描いています。また、別の企業は、人の歩き方に関するさまざまなデータを取得して健康改善に役立てることを目的に、普段の中敷きと交換して履くだけで姿勢、重量、消費カロリーなど細かなデータを計測できるスマートインソールを開発しました。このように、付加価値や顧客体験というコト中心のモノ領域で新たなビジネスが創出されています。コンソーシアムや産学連携においては、モノ中心の大手製造企業のみならず、コトづくりを推進するスタートアップや異種業などとの新たな連携も重要になってくると思われます。
データ流通をめぐる知財・標準化・ルール形成
 特許庁は人工知能(AI)や3Dプリンターによる革新的な製造に欠かせないデータセットについて、侵害があれば差し止められるように特許法を改正する検討に入っています。これまで特許は「モノ」の保護が中心でしたが、データセットを守る制度が整うことにより、産業データの利用にも弾みがつくとの期待があります。一方で、日本および欧州において個人情報保護の意識がより強まり、特に生体情報を扱う場合には、より慎重な取り扱いが求められるようになっています。また、第4次産業革命の進行に伴い、あらゆるモノやサービスがつながるうえで標準化・ルールに加えてデータの重要性が増しており、プラットフォーマーが圧倒的なシェアを握る実例もあります。このように、データは新たな産業資本としての地位を高めています。
 ISOなどの国際標準機関においても、これまでの互換性規格や評価基準規格に加え、「社会課題からのニーズ定義規格」に関連したTCが新設されており、より上位の概念やコンセプト自体を規格にすることがトレンドになっています。このような中においては、新たな社会や産業のデザインやビジョンからバックキャストし、データ・マネジメントやルール形成を検討していくことが肝要になると思われます。
環境・海洋プラスチック問題、SDGs
 2030年までに達成すべきゴールとして国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)は17のゴールから構成されており、特に「持続可能な消費と生産パターンの確保」、「海洋・海洋資源の保全」の目標達成に向け、資源循環や脱プラスチックへの社会的要請が高まっています。欧米を起点として次々に新たな環境規制やルールが生まれており、日本も積極的にルール形成を主導していく必要があります。海洋プラスチック問題については、政策および産業の両面から国際的な取り組みが推進されています。海洋生分解性プラスチックの研究開発は素材とプロセスの両面から進められており、その両方に強みをもつ山形大学は大きな貢献ができる可能性があります。
 3Dプリンターの材料においても、原料と破棄を含めたライフサイクルの観点から、さまざまな材料の開発が進められています。一方、リサイクルにおいては、付加価値を高める「アップサイクル」の考え方が重視されています。経済合理性のみならず、環境や社会に配慮したサステナビリティをユーザーや社会を巻き込んで追及している点が特徴的です。今後は、生分解性等の材料の機能・性能に対するニーズの高まりに加えて、リペアサービスやアップサイクルの観点からも分散製造に新たな可能性があると考えられます。
まとめ
 CNVFABの概念は、不確実性の高まりや環境問題など、ものづくりを取り巻く課題の解決に資する重要なものと考えられます。一方、デジタル主導のコトづくりやルール形成は、これまでのモノ中心の社会実装とはアプローチが異なる可能性があります。不確実性が高まるなか、ものづくりのダイナミック・ケイパビリティを高めるためには、多極分散型ものづくりへの移行は避けられません。CNVFABは必要とされるものづくりのデータをオンデマンドで提供できる司令塔、ものづくりのフランチャイザーをめざすべきだと考えます。