NEWS LETTER ニュースレター
2020/02/26(水) 1月23日 第10回 CNVFAB(コンビファブ)研究会が開催されました(ミライス株式会社様)
2020年1月23日、山形大学工学部百周年記念会館セミナールームにおいて、「やわらかものづくり革命共創コンソーシアムCNVFAB(コンビファブ)第10回勉強会(講演会)を開催し、ミライス株式会社様より、「小さな工房からデジタルファブリケーションが実現する多品種少量生産とビジネス展開」と題して、代表取締役片桐勝利氏からご講演を賜りました。
演題「小さな工房からデジタルファブリケーションが実現する多品種少量生産とビジネス展開」
ミライス株式会社 代表取締役社長 片桐勝利氏
●3Dプリンターの自作がきっかけで「ものづくり」の業界へ●
10年ほど前から「誰もが『ものづくり』に参加できる」、そんな世の中になりました。始まりは、3DプリンターRepRapの作り方が特許切れでオープンになったことによって、誰もが3Dプリンターをつくれるようになったことです。また、クラウドファンディングが盛んになり、資金がなくても製品の販売ができるようになったことも理由の一つです。私もこの流れに乗って3Dプリンターを自作したのが、現在の会社を立ち上げたきっかけです。父親が大工だったので、子供の頃は家にある道具や木材で何かをつくって遊んでいました。大人になってからは、父親を手伝って大工見習をしたり、模型店を経営したり、模型の雑誌に作例を載せたりはしていましたが、学校で理系の分野を勉強したわけでもなく、製造業に携わったこともありませんでした。
そんな私が始めたミライス株式会社は、今年8年目を迎えます。私、CGデザイナー、ベンチャーキャピタリストの3人で、自宅のガレージに工房を構えてスタートしました。その時に目標にしたのは、限られた分野に特化することなく、「デジタルファブリケーション」を活用してほぼ何でもつくれる会社です。3Dデジタルプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を、数値データで制御してものをつくっていくのが、デジタルファブリケーションです。
現在は工房を自宅から東京・立川の古い空き家に移しています。資金が潤沢ではないので、機械はできるだけ自作します。コンピュータ数値制御の工作機械CNCもかなり大規模なものを自分たちでつくりました。また、データを作成するソフトウエアについても、オープンになっている無料のものを使うなど、安くあげるためにいろいろな工夫を凝らしています。
●デジタルファブリケーションを活用した作品例●
創業以来、作品は特注ものや一品ものが中心で、扱う「種類を多く」する一方、扱う「数を少なく」し、「多品種少量生産」を実践しています。主な作品例としては、兜型のLED照明など兜をモチーフにしたオリジナル商品や、山形大学の校舎やJR米沢駅の駅舎の模型などの3次元造形があります。米沢駅舎を例につくり方を紹介すると、まず写真を撮り、そのデータをデザインソフトに入れて、図面を描き出します。次にそれを3次元化するソフトに入れて3Dのデータを作成し、3Dプリンターで造形するという流れです。このようにデジタルファブリケーションを活用すれば、元々の図面がなくても造形が可能なので、「形あるものはほぼ何でもつくれるのでは」という手応えを感じています。
●木工製品に力を入れる●
2017年に入ると、3Dプリンターブームの終焉などに伴い、ビジネスモデルを変革する必要が生じました。同じころ、廃プラスチックの処理が世界的に問題となり、日常生活品をプラスチックから木製製品へ切り替えることへの関心が高まってきました。このような状況の中、東京オリンピックを前にして国内外から日本の伝統工芸品への関心が集まっていることや、外国の展示会での伝統工芸品の評判の良さなども鑑み、「木工部門」を立ち上げて「和モダンな感じの木工製品」に力を入れることにしました。
木材は東京の檜原村・奥多摩町産の杉や檜を使い、オリンピックでブランドになりつつある「東京産」を強調しました。これは地場で生産・消費する「地産地消」であり、「エコサイクル」にもつながります。また、木工製品でも要望の多かった少量生産を貫き、個人向けのオリジナル商品を製作し、短期間でデータ化して製品化するという迅速な商品展開も売りにしました。注文後に製造して在庫を抱えないようにする、大口注文を受けても少量ずつ製作するといった「リスク回避」もしています。
これまでの木工作品例には、檜の透かし彫りの木札(個人や戦国武将などの家紋と名前入りの木札、神社の木札)、新選組グッズなどのオリジナルグッズ、檜製のLED照明などがあります。
10年ほど前から「誰もが『ものづくり』に参加できる」、そんな世の中になりました。始まりは、3DプリンターRepRapの作り方が特許切れでオープンになったことによって、誰もが3Dプリンターをつくれるようになったことです。また、クラウドファンディングが盛んになり、資金がなくても製品の販売ができるようになったことも理由の一つです。私もこの流れに乗って3Dプリンターを自作したのが、現在の会社を立ち上げたきっかけです。父親が大工だったので、子供の頃は家にある道具や木材で何かをつくって遊んでいました。大人になってからは、父親を手伝って大工見習をしたり、模型店を経営したり、模型の雑誌に作例を載せたりはしていましたが、学校で理系の分野を勉強したわけでもなく、製造業に携わったこともありませんでした。
そんな私が始めたミライス株式会社は、今年8年目を迎えます。私、CGデザイナー、ベンチャーキャピタリストの3人で、自宅のガレージに工房を構えてスタートしました。その時に目標にしたのは、限られた分野に特化することなく、「デジタルファブリケーション」を活用してほぼ何でもつくれる会社です。3Dデジタルプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を、数値データで制御してものをつくっていくのが、デジタルファブリケーションです。
現在は工房を自宅から東京・立川の古い空き家に移しています。資金が潤沢ではないので、機械はできるだけ自作します。コンピュータ数値制御の工作機械CNCもかなり大規模なものを自分たちでつくりました。また、データを作成するソフトウエアについても、オープンになっている無料のものを使うなど、安くあげるためにいろいろな工夫を凝らしています。
●デジタルファブリケーションを活用した作品例●
創業以来、作品は特注ものや一品ものが中心で、扱う「種類を多く」する一方、扱う「数を少なく」し、「多品種少量生産」を実践しています。主な作品例としては、兜型のLED照明など兜をモチーフにしたオリジナル商品や、山形大学の校舎やJR米沢駅の駅舎の模型などの3次元造形があります。米沢駅舎を例につくり方を紹介すると、まず写真を撮り、そのデータをデザインソフトに入れて、図面を描き出します。次にそれを3次元化するソフトに入れて3Dのデータを作成し、3Dプリンターで造形するという流れです。このようにデジタルファブリケーションを活用すれば、元々の図面がなくても造形が可能なので、「形あるものはほぼ何でもつくれるのでは」という手応えを感じています。
●木工製品に力を入れる●
2017年に入ると、3Dプリンターブームの終焉などに伴い、ビジネスモデルを変革する必要が生じました。同じころ、廃プラスチックの処理が世界的に問題となり、日常生活品をプラスチックから木製製品へ切り替えることへの関心が高まってきました。このような状況の中、東京オリンピックを前にして国内外から日本の伝統工芸品への関心が集まっていることや、外国の展示会での伝統工芸品の評判の良さなども鑑み、「木工部門」を立ち上げて「和モダンな感じの木工製品」に力を入れることにしました。
木材は東京の檜原村・奥多摩町産の杉や檜を使い、オリンピックでブランドになりつつある「東京産」を強調しました。これは地場で生産・消費する「地産地消」であり、「エコサイクル」にもつながります。また、木工製品でも要望の多かった少量生産を貫き、個人向けのオリジナル商品を製作し、短期間でデータ化して製品化するという迅速な商品展開も売りにしました。注文後に製造して在庫を抱えないようにする、大口注文を受けても少量ずつ製作するといった「リスク回避」もしています。
これまでの木工作品例には、檜の透かし彫りの木札(個人や戦国武将などの家紋と名前入りの木札、神社の木札)、新選組グッズなどのオリジナルグッズ、檜製のLED照明などがあります。
図1 ノベルティーグッズノ作品例
図2 檜のLED照明
●思わぬ失敗を経験する一方、新分野からの依頼も舞い込む●
そうしたなかで、旅館の部屋などに合うような、見た目が「和風」のスピーカーを作製することになりました。外側は檜製で和柄にし、中身は低音がきちんと出る仕様にした本格的なスピーカーです。またコードが外に出てしまうと、せっかくの和風の雰囲気が壊れてしまうので、無線のBluetoothにしましたが、これが思わぬ落とし穴でした。実はBluetoothスピーカーを販売する際には、無線の法律が適用され、PSE電気用品安全認証が必要だったのです。この認証を得るにはコストが結構かかることがわかり(このスピーカー場合は30万~50万円)、採算が合わないので結局商品化を見送ることにしました。
そうしたなかで、旅館の部屋などに合うような、見た目が「和風」のスピーカーを作製することになりました。外側は檜製で和柄にし、中身は低音がきちんと出る仕様にした本格的なスピーカーです。またコードが外に出てしまうと、せっかくの和風の雰囲気が壊れてしまうので、無線のBluetoothにしましたが、これが思わぬ落とし穴でした。実はBluetoothスピーカーを販売する際には、無線の法律が適用され、PSE電気用品安全認証が必要だったのです。この認証を得るにはコストが結構かかることがわかり(このスピーカー場合は30万~50万円)、採算が合わないので結局商品化を見送ることにしました。
そんな失敗もありましたが、たくさんの商品を展開している中で新しい分野からも声がかかるようになりました。その一つが神社の売店のパーテションです。これまで建具屋さんなどが作成していましたが、後継者不足や受注減による採算割れで撤退する企業も少なくなく、弊社に声がかかった次第です。せっかく請け負ったので、既存のつくり方ではなく、弊社ならではの「デジタル」のつくり方にこだわりました。アルミフレームで枠を作って、そこにレーザーカッターで加工した檜の板をはめ込み、キャスターを下につけます。かなり大きなものでしたが、デジタル化して製作したので大きさの制約はほとんどなく、1ヵ月ほどで完成しました。
図3 1ヵ月で完成した神社のパーティション
●今後の展開●
誰もがものづくりに参入できる時代になりましたが、工作機器がさらに高性能化・低価格化していくのは間違いありません。ものづくりへの参入障壁はどんどん低くなるでしょう。
そんな中で、私たちがどのように生き残っていくかが重要です。新しい分野の開拓には時間がかかるかもしれませんが、神社のパーテションの注文のように、既存の業種にも参入の余地があり、逆に残存者利益が生まれている業種もあります。そして、デジタルファブリケーションの「試作コストが低い」「在庫を持たなくて済む」「売れない商品の撤収コストが低い」という優位性を活かし、特定の分野に特化しないということがますます大事になってくると思います。
また、私はものづくりをしたい人が、自分の経験や知識、知恵を出す場をつくりたいと思っています。例えば、先ほどのBluetoothの失敗例は、もし電気機器メーカーをリタイアしたエンジニアが身近にいれば、防げたことです。こういった「場」をつくることは、今後ものづくりをする上で大きなテーマになっていくのではないかと考えています。
誰もがものづくりに参入できる時代になりましたが、工作機器がさらに高性能化・低価格化していくのは間違いありません。ものづくりへの参入障壁はどんどん低くなるでしょう。
そんな中で、私たちがどのように生き残っていくかが重要です。新しい分野の開拓には時間がかかるかもしれませんが、神社のパーテションの注文のように、既存の業種にも参入の余地があり、逆に残存者利益が生まれている業種もあります。そして、デジタルファブリケーションの「試作コストが低い」「在庫を持たなくて済む」「売れない商品の撤収コストが低い」という優位性を活かし、特定の分野に特化しないということがますます大事になってくると思います。
また、私はものづくりをしたい人が、自分の経験や知識、知恵を出す場をつくりたいと思っています。例えば、先ほどのBluetoothの失敗例は、もし電気機器メーカーをリタイアしたエンジニアが身近にいれば、防げたことです。こういった「場」をつくることは、今後ものづくりをする上で大きなテーマになっていくのではないかと考えています。