NEWS LETTER

2019/07/18(木)



株式会社LIGHTz


CEO 乙部慎吾 氏






令和1522日、山形大学工学部百周年記念会館セミナールームにおいて研究会を開催しました。株式会社 LIGHTz CEO 乙部信吾氏に講演していただいたあと、本プロジェクトにおけるAIの利用やコンビニエンス・ファクトリーのあり方について、乙部氏を交えてディスカッションを行いました。


熟達者の知をAI

 2015年に会社を作ろうと考えたとき、人間の考え方そのものを残したり、解析したりする事業をやりたいと考えました。そのため、LIGHTzは、AIやビッグデータ解析が専門の会社でありながら、「スペシャリストの知を次世代の“気づき”につなげる」を、基本コンセプトとしています。仮説なしのAIではなく、熟達者の思考を再現するようなAIを作れば、次世代を担う若者たちに気づきを与えられるだろうという発想です。


私たちが構築したAIは、『ORGENIUS®』という名前です。「OR」は、originという言葉から取っており、「地球上の原理原則を埋め込むようなAIを作りたい」という思いを込めています。『ORGENIUS®』では、BrainModel®を作成し、解析に利用することでソリューションを提供します。BrainModel®は熟達者の思考を言語解析してグラフ構造化し、数学的に扱えるようにしたもので、数値解析ではなく自然言語処理から入るところがユニークだと思っています。


BrainModel®はすでに技術の継承に応用されています。その好例は、LIGHTzの親会社である株式会社O22014年に買収したIBUKIという金型の会社の支援です。金型の作り込みのAI化に成功し、2018年の第7回ものづくり日本大賞で経済産業大臣賞を受賞するなど、高い評価を受けました。IBUKIは山形県内に工場をもち、山形大学とのご縁ができるきっかけとなった会社でもあります。


 また、熟達者の知を伝えるという点では、スポーツへのAIの応用も、弊社の得意領域です。2017年から日本フェンシング協会に専属のデータアナリストを1名派遣しており、日本フェンシングの好成績につながっているのではないかと思っています(注:20198月には日本フェンシング協会とオフィシャルサプライヤー契約を締結)。

ブラックボックスではないAIを作るための技術

 一般的には、AIは統計処理や数学的アルゴリズムに基づいて作られ、そのAIによって、教師データなしにビッグデータの解析が行われます。一方、私たちは、まず熟達者に丁寧にヒヤリングを行い、その言葉を言語解析して共起関係のネットワーク(BrainModel®)を作り、これをAIに組み込んでデータ解析を行います。教師データがあるので、データは少量でもかまいません。

私たちの方法は、第2AIブームで失敗したとされるルールベースのAIの作りかたと似ていると言われることもあります。しかし、ビッグデータ解析型のAIは、自律的に出した答えが合っていても、答えを導く過程はブラックボックスで、ものづくりにはなじまない。このため、私たちは教師データ起点型にこだわっています。

 例えば、金型製作の見積もりをする際、熟達者は図面を見た途端に頭の中で思考が飛び、あっという間に見積もりをします。これは、熟達者には、重要なポイントだけを見る「定点観測性」と、その結果を瞬時に反映させる「直感的思考」があるからです。この2つを備えた熟達者AIを構築するため、BrainModel®のほかに、Network SearchData to Textの技術を独自に開発し、活用しています。

 Network Searchは、キーワード一致型検索ではなく、直感、連想、類義語などを採り入れて条件にあった検索結果を与えるものです。例えば、Facebookの友人リコメンド機能にも、こうした検索が使われています。私たちは、ある不具合に関係する言葉をBrainModel®から探すといった場面でNetwork Searchを使います。

Data to Textは、数値や画像などのデータと言語の行き渡りをうまく作るために、データを言語化する技術です。例えば、弊社の『MINAMO®』という、塗装画像の検査向けAIでは、検査画像に現れる不具合を、「過去の画像と比べて○%共通」というような数値ではなく、「打痕」「ゴミ」「塗料の飛び散り」といった言葉に置き換えるようにしています。前もって、熟達者のBrainModel®を構築しておき、そこに画像からの言葉を結びつけることで、不具合への対策を提案することができます。これをさらに進めれば、AIがデータや画像にコメントをつけることも可能ではないかと考えています。

技術伝承のコンシェルジュを目指して

 「大根をおいしく煮るには、下ゆでに米のとぎ汁を使うといい」というノウハウはよく知られています。しかし、それがなぜよいのかは、デンプン、熱、アミラーゼといった要素と、デンプン分解、糖分浸透といったメカニズムがそれぞれネットワークをつくっていることを理解しないとわからず、そこまで知っている人は少ないことでしょう。実は、熟達者の技術の継承においても、同様のことはよく起こっています。何か不具合があったとき、表層のノウハウで解決してしまい、下層にあるメカニズムまで考えないため、根本的な解決になっていないとか、誤った対応をとっている場合があるのです

とはいえ、メカニズムのネットワークまでブレイクダウンし、知識として習得するのはたいへんです。そこで、私たちが基本的な知識をAI化し、技術者が困ったときにコンシェルジュとして働くようにしています。例えば、金型の場合、メカニズムとしては、熱の伝わり方、流体の流れ、樹脂の結晶化など、それほど多くないのではと感じています。技術者は、そういう理屈を大まかに把握していれば、あとは、私たちのAIがお手伝いしますから、細かいノウハウを全部覚える必要はないのです。私たちはこれを「汎知化」と呼んでおり、技術の継承に欠かせないものだと考えています。

事例――IoT金型

 具体例として、IBUKIと弊社が、本プロジェクトのメンバーである山形大学の伊藤浩志先生と共同研究しているIoT金型をご紹介します。この研究は、「金型チューニングに関する熟達者知見のAI化による機差・環境差推定アルゴリズム開発」というテーマ名で、経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択されています。

金型内部の樹脂の動きは見えませんが、熟達者の脳内では見えていて、「こういう条件ではこうなる」という予測ノウハウがあります。それをAI化するため、金型の各所に温度、流速、圧力などのセンサーを取り付けた「IoT金型」を作製し、データを取得して解析することで、成形条件パラメータがデータの波形に与える影響を指標化することができました。さらには、樹脂成形の各ステージで発生する不具合をマッピングすることもでき、「良品ロードマップ」を作成できました。

熟達者のノウハウと、大学によるメカニズム解明がマッチングしてよいモデルができたと思っています。共同研究の過程で、技術者が自分のノウハウの学術的な意味を知って喜んだり、見落としていた点を研究者に指摘されて冷や汗をかくなど、IBUKIと私たちにとってよい経験となりました。

今後の事業展開

 私は、現在の第3AIブームで発展を続けているディープラーニングとニューラルネットワークが工学の歴史を変えると思っています。AIによる可視化、特徴量抽出により、「異常」のなかに隠れているメカニズムがわかり、これまで属人的にしかわからなかったことが定式化されるのではないでしょうか?

 私の野望は、製造業のゲームチェンジを起こすことです。現在は、大企業がサプライヤや中小企業に発注・委託する流れですが、私たちのような中小企業・ベンチャーが「プライム・ベンダー」として新規製品を試作し、量産技術を確立して、大企業に生産を発注するようにしたいのです。そのためには、より高速なラピッドプロトタイピングと、量産技術開発の省力化・短期化が必要であり、その点で、本プロジェクトに期待しています。

質疑応答とディスカッション

 

BrainModel®のデモンストレーションが行われ、質疑応答があった。

QBrainModel®とメカニズムのレイヤーの関係は?

乙部:BrainModel®では、パラレルチャートというデータに基づいて、言葉の関係をつなげていく。教科書をベースにして、教科書のなかのどれが大事なのかを実情に合わせていく感じ。(学んだことを経験値で賢くしていく感じ)

Q:特許を読み込んで解析してはどうか

乙部:言語処理のアルゴリズム自体は使っている会社が多いが、競合が多いので、数値との関係づけの方向に進んでいる。

Q;パラメータを変えながらデータをとったほうがいいのでは?

乙部:弊社では実験結果はつくれないので、現象にマッチングさせてソリューションを提供している。

LIGHTzは本プロジェクトの共創コンソーシアムのメンバーであることから、プロジェクトの進め方、CNVFABあり方、AIの利用について意見交換が行われた。

・ゲームチェンジを目指すには、早期に量産技術を確立することが重要。CNVFABにその機能を期待している。ものづくりベンチャーでは、売り上げが数億の段階で、50億で工場をつくるといった、一足飛びの状況が生まれがち。世の中に出せる品質に持っていくところが大事なので、生産技術づくりはビジネスニーズがある。(乙部)

CNVFABでは、小ロットでカスタマイズしたものを考えている。

CNVFABの価値は、スマート工場に大学の研究者がついているところ。データベースがあっても、そこに先進性を持ち込んだり、それをやるべきかという評価をしたりできる。中小企業の悩みを大学が学理で解決すれば、大企業に売れるのでは?

・それは、うまくやらないと大企業に利用されるだけ。

・何を作るかと、どう作るかを区別すべき。大学は知恵を生み出すべき。

・製法特許を取るのは難しいので、新しい材料や、製造の結果としての構造を押さえるべき。

CNVFAB 3Dゲルプリンターの問題解決にLIGHTzが協力中だが、パラフィンを立てるところが難しく、うまくいっていない。なぜなのか、環境差なのか不明。この分野の熟達者はいないので、センシングして情報を集めている段階。(野末)

・大学の研究での試行錯誤を減らし、研究を効率化するためにAIを利用するというニーズはあるか?(乙部)

・最近の大学の先生は保守的になっており、忙しくもある。CNVFABを利用して、使いやすい形で提示すれば使ってもらえるかもしれない。

・大学の研究では、実験する人が変わるとうまくいかないことがよくある。また、実験室でうまくいってもスケールアップするとダメなこともある。こうした問題の解決に、AIを使えないか。

・そうしたノウハウについては、AIに渡すことを嫌がる研究者もいるのではないか?

デジタル機器の使いこなしのようなことならいいかもしれないが、研究者はゼロから1を狙っているのだから。

・我々のAIは、過去の事例からベースソリューションを提案する。「気の利いた下ごしらえ」のようなもの。そこに一さじ加えることで新研究ができるのでは?(乙部)

AIは、これまで研究されていない分野を見つけて提案することもできる。うまく行けばいいし、うまくいかなくても知見は蓄積される。大学はそういう研究をしてはどうか?(乙部)