NEWS LETTER ニュースレター
2021/01/14(木) 12月22日 第13回CNVFAB(コンビファブ)研究会が開催されました(株式会社島精機製作所様、キヤノン株式会社様)
●株式会社島精機製作所 東京支店 伊藤淳治氏
演題「ホールガーメント技術、市場、トピックス」
島精機製作所は1962年に設立され、世界で初めて全自動手袋編機を発明しました。その後、衿編機の開発を機に横編機業界に参入し、1995年に完全無縫製型横編機である「ホールガーメント横編機」の開発に成功しました。
横編機の商品の変遷
ホールガーメント横編機の販売台数は2015年ごろから急速に伸びており、2019年までに累計1万1000台となりました。ホールガーメント横編機で製造した商品を扱うブランドは300を超えています。ラグジュアリーブランド、スポーツブランド、ファストファッション、アウトドアブランドだけでなく、縫い目がなく肌あたりがよいということから子ども服ブランドにも採用されています。また、導電性繊維を編み込んで生体データを取得できるようにしたウェアや、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の冷却ベストの製造にも使われています。2008年には、スペースシャトルでの日常服の製造にも採用されました。さらに、衣類だけでなく、インテリア業界でも採用され始めています。まだ研究段階ですが、自動車のシートの開発も進んでいます。
ホールガーメント横編機は、現在のアパレル業界の課題解決にも貢献できると考えています。アパレル業界の生産工程は労働集約型で人手が必要だったのですが、なかなか人手が集まらないことから、機械生産に置き換える流れになっています。ホールガーメント横編機を使えば、裁断や縫製といった人手がかかる作業が不要になります。また、従来の製造方法で生じる生地ロスは環境に負担をかけるため、環境に配慮した製造方法として注目されています。
生地ロスだけでなく、大量生産して大量廃棄を繰り返すという、今までのアパレル業界で当然であったビジネスモデルの見直しも世界各国で始まっています。そこで島精機製作所では、洋服の3Dシミュレーションに特化したデザインシステム「SDS-ONE APEXシリーズ」を開発しました。このシステムでは、糸1本からどんな編み上がりになるかをシミュレーションでき、試作による時間やコスト、そして試作品の廃棄を削減できます。また、最近ではECサイトでの活用も多くなっています。従来は、商品の製造が終わってから製品画像を掲載し、販売していましたが、SDS-ONE APEXシリーズを使えば、製造する前に3Dシミュレーションによる画像を掲載して先行予約を受け、需要予測を行って生産量をコントロールすることができます。これにより、売れ残りによる廃棄とコストを削減できます。
●キヤノン株式会社 R&D本部 材料技術121開発室 城田衣氏
演題「デジタルテキスタイルとオンデマンドアパレルについて」
私は公私ともにデジタルテキスタイルに関する活動を続けています。2017年にファッションビジネス学会にデジタルテキスタイル研究部会の設立を働きかけ、現在は同研究部会の会長を務めています。
デジタルテキスタイルとは、スクリーンなどの版を使わず、デジタルデータからインクジェットなどによって布に直接プリントする技術のことです。スクリーン捺染では1色ごとに版を作製してプリントしますが、デジタルテキスタイルでは一度に多色のインクでプリントできます。布種に合わせた染料をインク化して用いており、水で洗い流されるといった心配はありません。繊維業界の出版社であるWTiN社の2019年のレポートによると、世界で生産される全テキスタイルの約7%がデジタルテキスタイルとなっています。デジタルテキスタイルに使用されるインクジェットヘッドのほとんどは日本のメーカーの製品であり、世界で存在感を示しています。
デジタルテキスタイルのメリットは三つあります。第一に、多品種・小ロット・短納期の生産に対応できることです。テキスタイル生産では、見本を作るためにも版が必要で、さらに本生産向けの大きな版も用意します。版の製作費をまかなうためには大きなロット数の生産が必要で、売れ行きが悪かった場合には大量廃棄の原因になります。デジタルテキスタイルであれば、見本プリントと同じものを必要なだけ量産できます。第二に、グラデーションも含めてデザインの自由度が高いという特徴があります。第三に、省エネであることです。スクリーン捺染では水を使用しますが、デジタルテキスタイルは方式によっては水をほとんど使いません。スクリーン捺染と比べてCO2排出量を95%削減できるという試算もあります。
デジタルテキスタイルのプリント方式には、ロールtoロール(RtoR)とダイレクトtoガーメント(DTG)の二つがあります。
デジタルテキスタイルのプリント方式
RtoRは、平らな布にプリントしてから縫製する方式であり、布に直接プリントする直接方式と、紙にプリントしてから布に染料を移行させる昇華方式のさらに2種類に分類できます。一方、DTGは、縫製後にプリントする方式で、世界ではTシャツの5%がDTGでプリントされています。靴下にプリントする機械もあります。
さて、コロナ禍でアパレル業界では大きな変化が起きています。実店舗での売上は減少し、大規模イベント中止によって広告やイベントTシャツ販売も縮小しています。欧州で最大のデジタルテキスタイル工場の一つが閉鎖したというニュースもあります。一方で、オンラインショッピングは増え、注文を受けてから加工する「オンデマンドアパレル」の台頭と、家庭でのアパレルDIYの加速の兆しが見えています。オンデマンドアパレルとデジタルテキスタイルが合体することで、個人が容易にブランドオーナーになったり、好みの布地で自分にあったサイズの洋服を作ったりできる時代になりつつあります。RtoR方式では、都内の百貨店で試着して洋服の形とサイズを決め、自分の好きな布地のデザインを選ぶとと、その布地でつくられた洋服を約2週間で受け取ることができるサービスが行われています。海外の同様のサービスでは、オンライン発注で3〜4日で発送してくれるところもあります。DTG方式では、「Merch by Amazon」という、クリエーターがアップロードした画像をTシャツにプリントしてすぐ配送してくれるAmazonのサービスがあります。
コロナ禍により、オンラインを軸にした新しいアパレルものづくりが始動しています。個性と美にあるれるファッションをオンデマンドで制作する流れが今後さらに加速すると考えられます。