NEWS LETTER

2019/03/29(金)

 2019年3月14日、TKPガーデンシティPREMIUM神保町(東京都千代田区)において、「やわらかものづくり革命共創コンソーシアム CNVFAB(コンビファブ)第1回シンポジウム」(テーマ~「ソフト3D界面」の新学理と「コンビニエンスファクトリー」の未来~)を開催しました。
 山形大学の大場好弘理事による開会挨拶、文部科学省の村瀬剛太室長による来賓挨拶、領域統括の古川英光教授からの活動紹介に続き、マテリアライズジャパンの小林貞人氏、リコーの飛田悟氏の講演では、企業におけるやわらかものづくりの実際が紹介されました。さらに、ソフトロボティクスの第一人者である立命館大学の川村貞夫の講演が行われ、最後に、本プロジェクトの各課題の概要が紹介されました。参加者は、企業を中心に約80名で、シンポジウム後の交流会では、講演の内容や今後の活動をめぐって、活発な意見交換が行われました。
開会挨拶
山形大学理事・副学長 大場好弘
 このプロジェクトでは、やわらかく、自在なデバイスをコンビニエンスファクトリーという新たな概念で実現することを目指しています。2018年9月に採択されたオープンイノベーション機構と連携するOPERAプロジェクトとして10月に採択されています。OPERAプロジェクトは産学共同で新たな学理を基に非競争領域の課題を解き明かすプロジェクトですが、なるべく早く結果を示し、開発、実証という競争領域へとステージを進めたいと思っています。
 本学は、数値目標を掲げて企業様とのパートナーシップの拡大を図っており、明確なビジョンと戦略をもって、学理から開発、社会実装、ビジネスまでの迅速な展開を進めています。そうした中で、このプロジェクトが、産学の両方の発展に資することを願っています。

来賓挨拶
文部科学省科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課
大学技術移転推進室室長 村瀬剛太氏
 山形大学は、我が国を代表する産学連携の大学であり、いつも注目しています。
 産業界の皆様にとっての大学の役割は、研究シーズの創出、人材育成に加え、特に近年は、大学と企業が、組織対組織で本格的なビジネスパートナーとして連携することが求められています。このため、文部科学省では、協調領域を支援するOPERA事業と、競争領域を支援するオープンイノベーション機構の2つの事業を行っており、山形大学は、その両方に採択されています。
 その背景には、コンビファブのような新しいコンセプトを展開し、自学の強みを生かした産学連携を全学一体となって進めていることがあげられます。産業界の皆様には、OPERAとープンイノベーション機構を通じて山形大学とウィン・ウィンの関係を構築していただければと思います。
活動についての紹介
領域統括 古川英光

 IoT(Internet of Things)やインダストリー4.0が顕在化し、人体とデバイスや機械が接触する未来が近づいています。この研究領域では、人体と機械が接する凹凸面や局面に有機の新しいデバイスをつくるにはどうしたよいかという課題に取り組みます。山形大学が培ってきたインクジェット、ソフトナノコーティング、有機トランジスタ、プリンテッドエレクトロニクス、3Dプリンティングの技術を用いた、3Dソフト界面実現のための装置群を開発し、コンビファブに集めてコンセプトの実証を行います。
 コンビファブは、山形大学における、ものづくりからことづくりへの新しいエコシステムの上流部分で大きな役割を果たすとともに、Sciety5.0を牽引することを目指しています。長い目で応援していただければ幸いです。
マテリアライズにおける3Dものづくり
マテリアライズジャパン株式会社
Corporate Business Development-Director Japan
小林貞人氏
 マテリアライズは、1990年に創業したベルギーの企業で、現在は世界18カ国のオフィスで2000名ほどが働いています。「よりよい、健康な世界の創造につながるものづくりに、高度なソフトウェア、ハードウェア、3Dプリントに関する深い知識を通じて貢献すること」がミッションで、3Dプリンティングのソフトとハードの開発と、製品製造を行っています。
 提供できる製品のサイズは、当初は技術とコストの制約からビー玉サイズでしたが、2002年ごろからカスタム補聴器の分野で使われるようになり、2000年代後半には整形外科手術用「患者適合型サージカルガイド」、2010年からは歩行矯正用のインソールと次第に大きくなっています。最近では、航空機の内装部品や、カスタマイズしたメガネフレームの製造システム(HOYAと共同開発したYuniku)なども手がけています。
 3Dプリンティングによるものづくりには、①コストと在庫を減らせる、②製品の性能を向上させ付加価値を高められる、③プロセスを構築すれば現地生産が可能、④カスタム品の生産が可能という特徴があります。医療分野では、CTデータを用いて病院で手術部位を3Dプリントするといったことも技術的には可能になっています。 3Dプリントによるものづくりでは、新しい材料や新しいプロセスが開発されると、用途も広がっていくので、このプロジェクトの成果に期待しています。
リコーのインクジェットへの取り組み
株式会社リコー CIP開発本部IH開発センター所長 飛田悟氏
 リコーは、国連が定めたSDGsと密接に関係する5つのマテリアリティ(知の創造、循環型社会の実現など)を成長戦略の中心に据え、「表示する印刷」で事業領域を広げ、「機能する印刷」で産業を革新することを目指しています。
 「表示する印刷」とは、紙や布に印刷する従来の印刷です。高耐久、高生産性のインクジェットヘッドの技術と、幅広いシステムに対応するインクの開発力の両方をもつというリコーの強みを生かし、プリンタで使われる画像処理技術も応用することで、建材、テキスタイル、ポスターなど様々な産業用途に向けて印刷技術を開発し、提供しています。
 「機能する印刷」とは、インクやトナーを使わず、機能性を持った材料をインクジェットで吐出し、新たな分野の価値を生み出す印刷で、やわらかものづくりとも深く関わるものです。その1つとして、生物と同様のやわらかさをもつハイドロゲルを3D造形する技術を開発しています。また、インクジェット技術でリチウムイオン電池を自由な形状で製造する技術を、世界で初めて開発し、IoTやウエアラブルデバイスへの応用が期待されています。さらに、細胞をインクジェットの技術で基板上に制御して配置する技術も開発しており、創薬を支援する細胞チップや、再生医療に応用可能な組織の作製への展開が考えられます。
 本プロジェクトでは、コンビファブにインクジェット技術を提供し、イノベーションの創出に貢献できればと考えています。
ソフトロボティクスの実現に向けて
立命館大学理工学部教授 川村貞夫氏
 現在の産業ロボットは剛体で、関節は電動モーターとギアからなり、ティーチングにより確定環境で決まった動作をします。手先精度は数十マイクロメートルと精密で、自動車などの製造の省力化に貢献してきました。しかし、今後は、軽工業やサービス業に使える、小型で軽く、やわらかく、安く、エネルギー効率が良く、変動環境に強いロボットが必要となります。このため、学界ではソフトロボティクスが注目を集めています。私自身も、3Dプリンタを用いて、空気圧で曲がる指を試作したり、柔軟なハンドの力学解析に取り組んだりしています。また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第2期において、外食産業や農林水産業へのロボットの導入を視野に入れ、やわらかいハンドに集中して研究開発を開始したところです。
 ソフトロボティクスの論点としては、①剛体は力学的に明確に定義できるが、やわらかいものは定義があいまいになる恐れがあること、②新たなモデリング手法の開発、③データ駆動とモデル駆動の使い分け、④いいかげんな制御でうまくいくことを厳密に証明する必要があること、⑤分野をまたいだ考察が必要なこと、があげられます。
 ソフトロボティクス産業界からのソフトロボティクスへの期待は非常に大きいですが、学術として成立し、産業として本物になれるかは、今後にかかっています。具体的なニーズに向かって開発を進めるためのロードマップの作成が必要ではないかと感じています。
各研究課題紹介(各課題の代表者、副代表者などから、概要の紹介がありました)
山形大学 黒瀬隆准教授、酒井真理教授、時任静士教授、廣瀬文彦教授、水上誠准教授

研究課題紹介1(黒瀬)

研究課題紹介2(酒井)

研究課題紹介3(時任)

研究課題紹介4(廣瀬)

研究課題紹介5(水上)

閉会挨拶
領域統括 古川英光