NEWS LETTER

2019/07/18(木)

株式会社ATOUN
代表取締役社長 藤本弘道氏
会社と製品について
 私は大阪大学工学部原子力工学科、同大学院修士課程を終えた後、現在のPANASONICに入社しました。ATOUNは、2003年、私が31歳の時に、PANASONICの社内ベンチャーとして設立した会社で、本社は奈良にあります。年齢や性別に関係なく働ける「パワーバリアレス社会」の実現を目指し、パワーアシスト機器を開発しています。主力商品は、「POWERED WEAR」と、「POWERED SUITS」です。
 「POWERED SUITS」は、力持ちになる製品ですが、今日ご紹介する「POWERED WEAR」は、腰の負担を軽減する「着るロボット」です。重い物を上げ下ろしするときに、腰の動きをセンサーがとらえ、モーターの力でアシストします。スイッチを操作しなくても、人の動きに対して、「あうんの呼吸」でロボットが動きます。特に、中腰姿勢や、ものを下ろすときに効果が高く、左右別々の制御なので、作業を妨げないことが特徴です。作業の状態をモニターするセンサーとその情報を発信する機能もついているので、作業者の疲れ具合を把握し、作業の安全を確保することができます。
 2018年7月末に出荷を開始し、3/26までに倉庫物流、工場物流、農業などの現場へ約250台販売しています。「POWERED WEAR」を導入した会社からは、作業が楽になり、効率が上がるだけでなく、「従業員を大切にすると好感され、人材が確保しやすくなった」という声が届いています。2019年2月には、JALグランドサービスと共同開発したモデルが、羽田と成田で手荷物の積み下ろし用に20台導入され、今後、他の空港にも展開される予定です。
介護施設などでも利用可能ですが、着脱の手間がかかることもあり、介護現場の意見を聞きながら改良を進めている段階です。できることは「できる」、できないことは「できない」と、きちんとお伝えすることが、製品の信頼につながり、ひいては販路の拡大につながると考えています。

開発の進め方
 現在、社員は25人ほどですが、私から細かい指示はしません。「パワーバリアレス社会の実現」という理念のもとに、「あうんの呼吸で動くロボットを着よう」「ロボットは人間の職を奪わない 人間が活躍する場を増やすのだ」「時代は奈良からはじまった 未来も奈良からはじまる」という3つのキャッチコピーを掲げ、それに沿って、社員は自分の担当する業務を考え、実行しています。ATOUNでは「言葉」を大切にしており、社員たちはよく議論します。
 創業当時、人工筋肉(空気圧でチューブを膨らませて力を出す)で脳卒中の患者さん向けのリハビリ用スーツをつくりました。メディアにも注目され、バズりましたが、パートナーだった会社の判断で社会実装までは到達しませんでした。この苦い経験から、製品を社会実装まで持っていくにはどうすればよいかをいつも考えています。また、技術情報流出の経験もあり、逆に、すべてを見せながら開発する「劇場型開発」をするようになりました。
 イノベーションを起こすのに必要なこととして、以下があると思っています。
1.距離感のある知識を2つ組み合わせて合わせて新しい知識や価値を生み出す:私はこのやり方が好きです。
2.イノベーションは技術革新ではない:イノベーションとはものの見方を変えることだと思っています。ある道具の本来とは違う使い方を発見したら、それがもうイノベーションなのです。
3.他社とは違う視点をもつ:他社のパワーアシストは、「作業を楽にする」が出発点ですが、我々はお客さんの視点に立って「作業を邪魔しない」を出発点にしています。わずかな違いのようですが、これが技術の違い、製品の違いを生み出していると自負しています。
4.お客さんの言うことを聞かない:お客さまは現場作業のプロなので、話は一生懸命聞きます。しかし、ハードウエアについては我々がいちばんよく知っていますので、こちらからよいと思うものを提案します。お客さまの希望と我々ができることのすりあわせがイノベーションに重要ですし、それをやらないと「死の谷」を越えられないと思います。
5.非常識を見つけることがスタートである:「POWERED WEAR」は人の動きに追随してアシストしますが、開発を始めたころ、腰の回転だけをみてそのような制御をするのはムリだと制御のプロは言いました。しかし、社内で「制御の常識」を知らなかった人間が、求めるものに近い制御を達成してしまったのです。あとはプロが完成させてくれました。
6.プロトタイプまではイノベーションではない:製品あるいは概念が世の中にある程度広がらないとイノベーションとは言えないと思います。ただし、そこには、資金、技術、タイミング、運などが効きます。例えば、カップヌードルが普及したのは、浅間山荘事件があったからと言われています。

ランディングの重要性
 会社が外からどう見えるかは、経営戦略上、とても大事です。このため、私はブランディングに力を入れています。
 2017年に、創業時の「アクティブリンク株式会社」から社名を変え、ロゴマークもつくりました。「あうんの呼吸で動くロボット」を目指していることから、プロの提案で、「『あ』と『うん』」のローマ字表記を社名にしました。ロゴは、白地に黒で、シンプルですが力があり、「距離感のあるものを組み合わせる」というイメージも表しています。社名変更に合わせて、ウエブサイトのデザインや製品紹介動画も一新しました。その際、私自身がクリエイターとやりとりし、統一感が出るようにしました。
 製品名は、商標登録の費用も考えて「ATOUN MODEL Y」などとし、末尾のアルファベットを変えるだけにしています。一方、開発コードは、奈良にちなんだものにしています。例えば、歩行をアシストする装置は「HIMICO」と名付けています。ちなみに、社屋は、そうめんの会社の持ち物だった瓦屋根の建物です。その中で先端のロボットを開発しているというギャップがおもしろいと思っています。
 製品のデザインも、ブランディングとして大事です。我々は、製品のコンセプト段階からデザイナーを入れることを基本にしています。先に技術者が開発し、後からデザイナーに入ってもらうと、カバーぐらいしかデザインできません。しかし、早い段階からデザイナーが入ることで、ATOUNらしいデザインになり、中の技術もそれに合ったものになっていきます。料理の世界では「シズル感」(例えば、肉がジュウジュウ焼けている感じを出すと肉がおいしそうに見える)が大切だとよく言われますが、それと同じで、開発の初期から製品が魅力的に見えるようにブランディングを考え、ビジネスモデルを考えているのです。
 ブランドについて考えるということは、自分自身の持ち味を使って仕事をするということです。ブランディングについていろいろな企業の方にお話しする機会もありますが、自分自身の持ち味に気づいていない企業もよく見かけます。自分にとっては当たり前のことが、外から見ると素晴らしい持ち味ということもよくありますから、ぜひ、自分自身の持ち味を見直し、それをアピールするブランディングを考えられてはと思います。

今後の方向性

 現在、ATOUNでは、部品はおもに海外で作ってもらい、国内でアセンブリーしています。ラピッドプロトタイプは、3Dプリンタなどを使って速くつくるのですが、そのための小ロットの基板製作で、最近衝撃的な体験をしました。よく似た基板を中国と国内の企業に発注したのですが、中国のほうが製品のクオリティが高く、納期は短く、価格は安かったのです。こちらで決めたスペック通りにつくるだけでなく、アイデアも出してもらうとなると日本企業のほうがまだ強いですが、今後は中国が台頭してくるのではと思います。「POWERED WEAR」はグローバルに販売もすることも考えていますが、こうした状況の中ですので、今後はアセンブリーも海外とする可能性があります。
 製品自体については、今後はもっと軽くしたいと思っています。現在は、外形は体に沿わせていますが、基板などの部品はまっすぐで固いため、装置内に空洞ができるのが問題となっています。基板がフレキシブルで、形を変えられれば、デザイナーは喜ぶし、形だけでなく機能も変わってくるはずです。
 近い将来には、人と自律型ロボットがいっしょに働くようになると思うので、そのときに、人間がボトルネックにならないようにするために、「POWERED SUITS」や「POWERED WEAR」を発展させたいと思っています。こうした製品が普及すれば、それとフィットした自律型ロボットも登場し、安い費用で生産効率を上げることができるようになるのではないでしょうか。