NEWS LETTER

2019/07/18(木)

株式会社SUSUBOX
代表取締役 相部範之氏
(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授)
「デジタルアプリケーション」

FABRICATOR(ファブリケーター)―新発想のものづくり機械

 昨年、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」プロジェクトにおいてFABRICATORという卓上工作機械を開発しました。
 FABRICATORは、工作対象の置かれたテーブルに、様々な工作ツールが次々に訪れて自動的に加工を進める機械です。例えば、チップを基板上に置き、スポットでハンダ付けし、切削し、3Dプリンタでケーシングするといった工程を、連続して行うことができます。ツールは組み換え可能なので、基板の組み立てだけでなく、化学/生物の実験装置やフードプリンタなどとしても使用可能です。
 従来、連続工程からなるものづくりでは、工作対象を1つの工程から次の工程へと移動させるため、装置は大型になるのが普通でした。また、移動の際に人手が入ることも多く、製品にばらつきが出るなどの問題が起こりがちでした。FABRICATORは、重量のあるツールヘッドを回転運動のみで切替え、加工対象を6軸の逆さデルタ機構で動かすことで装置が小型化され、また、人手の介入も抑えられているという特徴があります。
 また、例えば、工作時のパラメータを少しずつ変えて100通りの製品をつくるといったことが可能です。さらに人手が介入しないことで、これまで繰り返し試すことが難しかった加工パラメータの自動探索も可能です。操作のためのFirmwareはRepRap(Replicating rapid prototype:溶融樹脂積層法)ベースで、年内にオーブンソース・ライセンスで公開する予定です。

FabLab(Fabrication Laboratory)活動について

 なぜこういう装置を開発したかというと、FabLab の運営経験があったからです。FabLab とは、多様な工作機械を備え、市民が自由にものづくりをできる工房のことです。2002年にマサチューセッツ工科大学のニール・ガーシェンフェルド教授が『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』(2012年に『Fab ─ パーソナルコンピュータからパーソナル・ファブリケーションへ』として復刊)という著書で提唱し、世界に広がりました。
 FabLabと名乗るには、FabLab憲章の理念に従って運営されていること、少なくとも週1日は市民に無料で公開されていること、FabLab標準機材を備えていることなど、5つの条件を満たす必要があります。現在、日本には18ヵ所、世界では600ヵ所以上の工房があり、それぞれ独自のスタイルをとっています。
 私は、2011年にFPGA(field-programmable gate array:製造後に購入者や設計者が校正を設定できる集積回路=現場でプログラム可能なゲートアレー)-CAFE /FabLab Tsukubaを始めました。日曜日のみの営業で、作品をオープンソース化するという条件で工作機械を無償提供していました。秋葉原に行かなくても電子部品や評価ボードが買えるように販売もしました。2012年には、筑波大学発ベンチャーとして株式会社 SUSUBOX (ススボックス) を立ち上げ、FPGAを基本に、研究所などからの委託で回路設計を行う一方、FabLabの運営を続けました。普通の集積回路は、製造時に動作が決まってしまいますが、FPGAは、プログラムで動作を変えることができる集積回路です。
 FabLabで様々な工作機械を使っていたころから、それらを統合するというアイデアはあり、それがFABRICATORにつながりました。しかし、FabLabは私が秋葉原に移ったことで休止しています。

MAKERSの時代
 1980年にアルビン・トフラー氏は「第三の波」という本を書き、その中で「Prosumer (生産消費者)」という概念を提唱しました。これは、「Producer(生産者)+Consumer(消費者)」からなる造語で、誰もが生産者であり、消費者でもあって、必要なものは自分でつくる時代が来ると述べたのです。
 さらに、2012年には、クリス・アンダーソン氏が「MAKERS」という本を著しました。MAKERSとは、これまで大手メーカが担ってきた、製品開発と販売を個人で行う人のことです。その背景には3Dプリンタを代表とするラピッドプロトタイピング・ツールや、インターネットを通じた仕入れ、製造、販売チャンネルの拡充があります。昔ながらの開発から販売まで担う個人事業主や零細企業との差異は、これらのツールの活用で開発できる製品の範囲、品質、さらに納期が格段に向上し、大手メーカと競合できるまでに至ったことにあります。同氏は、その前の「ロングテール」という著書で、消費者のニーズが多様化した現代では、爆発的に売れる製品はわずかで、多品種の商品が少しずつ売れる傾向にあることを指摘しています。私は特定の用途向けの電子機器においては、大量生産品と、一品生産品の中間にある100~1,000個程度の小規模量産に商機があると考えています。従って、FABRICATORはプロトタイピングだけでなく、この規模の数量の製造設備としても機能できると考えています。
 現代は、MAKERSを生むのに十分な状況にあります。FABRICATORのように統合されていなくても、3Dプリンタ、レーザ加工機など様々なラピッドプロトタイピングツールがあり、操作が簡単で高品質な加工が行えます。マイコンやPCボードも、安価で高性能なものが販売されており、フリーソフトウェアもいろいろあります。部品は、個人向け通販サイトで簡単に入手でき、個人向けに基板製造や金属・樹脂加工をやってくれる業者もいます。作品の発表機会もあり、ますますMAKERSの活動はさかんになると予想されます。


MAKERSに向けたデバイスの開発
 
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「IoT 推進のための横断技術開発プロジェクト/トリリオンノード・エンジンの研究開発」のプロジェクトで開発したArduino(*1)互換のマイコン基板があります。本事業は2016年~2018年の約3年間に東京大学や東芝を中心に進めたもので、弊社もMAKERSやオープンソース・プロジェクト推進の立場から関わりました。2cm×2cmサイズで、ボタン電池で動作可能なマイコン基板で、Arduinoと同様にスタック可能です。このスタックのために、新たに専用の異方性導電ゴムを用いたコネクタを開発し、小型化と高い接続信頼性を実現しました。2019年の8月頃に製品化の予定で、同時に回路図やサンプルコードなどを公開の予定です。製品の設計図を公開、オープンソース化することの最大の利点は多様なニーズへ対応する可能性を広げることです。トリリオンノードとは1兆個のノードという意味で、これは100万個のノードでも100万種類なければ到達しない数です。これを大手メーカのみで実現するのは難しく、消費者自身が生産に関わって行く必要があります。
(*1) Arduino: アルデュイーノ (1) ハードウェア「Anduinoボード」(AVRマイコン及び入出力ポートを備えた基板)と(2)ソフトウェア「Anduino IDE」(C言語風の[Anduino言語]によってプログラムを制作・コンパイル・デバッグ等を行い、それを「Anduinoボード」に転送等をするための「総合開発環境」と呼ばれる、PC上で作動させる一種のソフトウェア)から構成されるシステム。