NEWS LETTER ニュースレター
2019/10/10(木) 6月26日 第4回CNVFAB(コンビファブ)研究会が開催されました(大塚化学株式会社様、ケイワイ株式会社様)
大塚化学株式会社
化学品事業本部
マテリアルソリューション事業部
営業部チーフ
室賀智毅氏
「超微細チタン酸カリウム繊維を配合した樹脂複合材料による、3D造形技術」
大塚化学は大塚ホールディングスの一員です。1950年創業で、現在は、ケミカルソリューション、マテリアルソリューション、ケミカルサイエンスの3事業を柱としています。
当社が開発したチタン酸カリウム繊維「TISMO」は、直径0.3~0.6μm、長さが10~20μmと、非常に小さいのが特徴です。大きさを比較すると、樹脂材料のフィラーとしてよく使われるガラスファイバー(GF)は直径が15μm程度で、カーボンファイバー(CF)もそれより少し細い程度です。TISMOのモース硬度は4でアルミニウムとほぼ同じであり、モース硬度が5~7で鉄より硬いGFのように、相手面を攻撃することが少ないのも特徴です。さらに、高強度、高剛性という特徴もあります。
このTISMOを樹脂に配合した射出成形用複合材料「POTICON」は、ミクロ補強性、表面平滑性、耐摩耗性に非常に優れています。最初に実用化されたのは、時計の小さなギアで、大きなGFでは実現できない細かな成形での強度アップを可能にしました。現在では、自動車の多くの摺動部品(ドアミラーウォームギア、クラッチ、バックドア、ウィンカスイッチなど)に採用され、コストダウン、軽量化、静音性向上などの効果をあげています。また、高温でもグリースなしで動作することが求められるレーザープリンタの滑り軸受けや、薄くても高強度が必要なデジカメの手ぶれ補正部品にも使われています。
このPOTICONのペレットを押し出し成形して、FDM (熱溶解積層) 方式3Dプリンタ用のフィラメントを製造しています。お客さまからの依頼で部品を「お試し造形」し、その部品を評価していただいたあと、当社で受託造形する場合と、お客さまにフィラメントを販売して、当社は造形のサポートをする場合があります。
FDM用の樹脂は非晶性のものが多く、フィラーなしがメインですが、POTICONは、POM(ポリアセタール)からPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)までの幅広い結晶性樹脂を材料とすることができます。様々な結晶性樹脂にTISMOを配合して3D造形を行い、造形安定性、造形精度、表面粗度、摺動性を調べたところ、いずれも既存材料よりも優れていました。特に、TISMOを配合することによって造形品の反りが減り、寸法精度が上がりました。造形後に研磨しなくても表面が平滑なので、例えば、遊星歯車は造形してすぐに滑らかに回転します。摺動性が優れているのは、TISMOが表面で配向しているためと考えています。また、強度は射出成形品と同等、剛性は射出成形品よりも優れていました。
このように、材料についてはいいところまで来ています。今後は、TISMOを配合した樹脂を安定的に押し出せるヘッド形状を検討することと、造形安定性と機能性を高めるための3Dプリンタのソフト開発が重要になってきます。ソフト開発については、ケイワイさんのご協力を得て進めていきたいと思っています。材料、ヘッド、ソフトの3つが揃うことで、3D造形の分野でPOTICONの創造性が発揮できると期待しています。
当社が開発したチタン酸カリウム繊維「TISMO」は、直径0.3~0.6μm、長さが10~20μmと、非常に小さいのが特徴です。大きさを比較すると、樹脂材料のフィラーとしてよく使われるガラスファイバー(GF)は直径が15μm程度で、カーボンファイバー(CF)もそれより少し細い程度です。TISMOのモース硬度は4でアルミニウムとほぼ同じであり、モース硬度が5~7で鉄より硬いGFのように、相手面を攻撃することが少ないのも特徴です。さらに、高強度、高剛性という特徴もあります。
このTISMOを樹脂に配合した射出成形用複合材料「POTICON」は、ミクロ補強性、表面平滑性、耐摩耗性に非常に優れています。最初に実用化されたのは、時計の小さなギアで、大きなGFでは実現できない細かな成形での強度アップを可能にしました。現在では、自動車の多くの摺動部品(ドアミラーウォームギア、クラッチ、バックドア、ウィンカスイッチなど)に採用され、コストダウン、軽量化、静音性向上などの効果をあげています。また、高温でもグリースなしで動作することが求められるレーザープリンタの滑り軸受けや、薄くても高強度が必要なデジカメの手ぶれ補正部品にも使われています。
このPOTICONのペレットを押し出し成形して、FDM (熱溶解積層) 方式3Dプリンタ用のフィラメントを製造しています。お客さまからの依頼で部品を「お試し造形」し、その部品を評価していただいたあと、当社で受託造形する場合と、お客さまにフィラメントを販売して、当社は造形のサポートをする場合があります。
FDM用の樹脂は非晶性のものが多く、フィラーなしがメインですが、POTICONは、POM(ポリアセタール)からPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)までの幅広い結晶性樹脂を材料とすることができます。様々な結晶性樹脂にTISMOを配合して3D造形を行い、造形安定性、造形精度、表面粗度、摺動性を調べたところ、いずれも既存材料よりも優れていました。特に、TISMOを配合することによって造形品の反りが減り、寸法精度が上がりました。造形後に研磨しなくても表面が平滑なので、例えば、遊星歯車は造形してすぐに滑らかに回転します。摺動性が優れているのは、TISMOが表面で配向しているためと考えています。また、強度は射出成形品と同等、剛性は射出成形品よりも優れていました。
このように、材料についてはいいところまで来ています。今後は、TISMOを配合した樹脂を安定的に押し出せるヘッド形状を検討することと、造形安定性と機能性を高めるための3Dプリンタのソフト開発が重要になってきます。ソフト開発については、ケイワイさんのご協力を得て進めていきたいと思っています。材料、ヘッド、ソフトの3つが揃うことで、3D造形の分野でPOTICONの創造性が発揮できると期待しています。
ケイワイ株式会社
代表取締役 吉崎圭祐氏
「3Dプリンタ向けスライスソフトの機能と将来」
弊社は2012年に設立され、様々なソフトウェアを受託開発する一方、自社製品の開発に取り組んでおりました。2014年に3Dプリンタの装置を作るベンチャーさんから声をかけられたことを契機として制御ソフトの開発を始め、2016年からはスライスソフト(スライサ)の開発を開始しました。同時期に大塚化学さんから材料提供を受けて共同研究を進めております。
3Dプリントは3DCADによる物体の表面を表すデータの作成、スライサによるノズルの移動を表すデータへの変換、変換後のデータ量が膨大なため制御ソフトによるデータの逐次送信という流れで行います。
スライサは造形物の断面を取り、造形領域を外殻・内部充填などに細かく分類しながら造形パスを生成します。さらに造形物以外にも、サポートやブリムなどの領域を必要に応じて追加し、造形パスを生成します。次に造形順序を調整し、移動パスを追加します。最後に材料のリトラクトやノズルのリフト、移動速度、吐出量などの設定に基づいてG-Codeを生成します。
当社のスライサ「Neonite Slicer」の開発コンセプトは、「機能評価試験が行える造形を実現するスライサ」です。造形したものを実際に使うとなると、例えば自動車部品であれば耐薬品性や耐熱性、機械部品の歯車であれば摺動性などが要求されます。そのためエンプラでの造形を目標としており、これは材料が限定されにくいというFDM方式の長所を生かすことにもなります。しかしエンプラでの造形は、造形精度、反り、強度などの問題が生じるため、これらの問題をパス生成の工夫により改善させることを目指しております。
造形精度が悪くなる原因の1つとして材料の糸引きが挙げられます。これを改善するために、段階的なリトラクト処理を導入しました。また、移動パスの影響による造形乱れもあります。こちらについては、造形順序の調整と移動距離の低減によって改善させるよう試行しております。
造形物の反りは積層した材料が冷えて収縮することで発生し、結晶性樹脂では特に大きくなります。反り低減のために造形パスを円形状とし、何重もの円を並べて面を埋めていく方法を採用しました。円形状とすることで収縮方向が分散されるため、造形物全体での反りが抑えられます。さらにTISMOを配合した樹脂では、TISMOが収縮を抑制して反りを抑えます。ソフトウェア面と材料面からのアプローチにより、物体の形状にも依りますが反りが発生しなくなります。
強度不足は、造形物内部に隙間が発生することが原因の1つです。そこで等間隔ではなく、一部を重ね塗りすることで隙間を縮小させております。また、単純な積層ではなく嵌合構造を作ることで強度向上を図る試みも行っております。
3Dプリンタは実用部品の製造に使われ始めており、スーパーエンプラなどの新材料対応や造形強度の向上が求められております。現在のスライサは全般的に設定が複雑なのが問題であり、材料、用途、形状に合わせた自動設定変更機能や、キャリブレーション機能の実現に向けて開発を続けております。
3Dプリントは3DCADによる物体の表面を表すデータの作成、スライサによるノズルの移動を表すデータへの変換、変換後のデータ量が膨大なため制御ソフトによるデータの逐次送信という流れで行います。
スライサは造形物の断面を取り、造形領域を外殻・内部充填などに細かく分類しながら造形パスを生成します。さらに造形物以外にも、サポートやブリムなどの領域を必要に応じて追加し、造形パスを生成します。次に造形順序を調整し、移動パスを追加します。最後に材料のリトラクトやノズルのリフト、移動速度、吐出量などの設定に基づいてG-Codeを生成します。
当社のスライサ「Neonite Slicer」の開発コンセプトは、「機能評価試験が行える造形を実現するスライサ」です。造形したものを実際に使うとなると、例えば自動車部品であれば耐薬品性や耐熱性、機械部品の歯車であれば摺動性などが要求されます。そのためエンプラでの造形を目標としており、これは材料が限定されにくいというFDM方式の長所を生かすことにもなります。しかしエンプラでの造形は、造形精度、反り、強度などの問題が生じるため、これらの問題をパス生成の工夫により改善させることを目指しております。
造形精度が悪くなる原因の1つとして材料の糸引きが挙げられます。これを改善するために、段階的なリトラクト処理を導入しました。また、移動パスの影響による造形乱れもあります。こちらについては、造形順序の調整と移動距離の低減によって改善させるよう試行しております。
造形物の反りは積層した材料が冷えて収縮することで発生し、結晶性樹脂では特に大きくなります。反り低減のために造形パスを円形状とし、何重もの円を並べて面を埋めていく方法を採用しました。円形状とすることで収縮方向が分散されるため、造形物全体での反りが抑えられます。さらにTISMOを配合した樹脂では、TISMOが収縮を抑制して反りを抑えます。ソフトウェア面と材料面からのアプローチにより、物体の形状にも依りますが反りが発生しなくなります。
強度不足は、造形物内部に隙間が発生することが原因の1つです。そこで等間隔ではなく、一部を重ね塗りすることで隙間を縮小させております。また、単純な積層ではなく嵌合構造を作ることで強度向上を図る試みも行っております。
3Dプリンタは実用部品の製造に使われ始めており、スーパーエンプラなどの新材料対応や造形強度の向上が求められております。現在のスライサは全般的に設定が複雑なのが問題であり、材料、用途、形状に合わせた自動設定変更機能や、キャリブレーション機能の実現に向けて開発を続けております。