NEWS LETTER

2020/02/05(水)

 
2019年8月27日、山形大学工学部11号館未来ホールにおいて、「やわらかものづくり革命共創コンソーシアム CNVFAB(コンビファブ)第2回シンポジウム」(テーマ~「プロダクトイノベーションを目指すコンビニエンス・ファクトリー」~)を開催しました。
 山形大学の大場好弘理事による開会挨拶、科学技術振興機構イノベーション拠点推進部の野口義博部長による来賓挨拶、領域統括の古川英光教授からの事業紹介に続き、本プロジェクトの各課題の進捗状況が紹介されました。
 さらに、株式会社ATOUN 代表取締役社長 藤本弘道氏の基調講演と、パネルディスカッションが行われました。参加者は約50名でした。
基調講演 「パワーバリアレス社会への挑戦」
      株式会社ATOUN 代表取締役社長 藤本弘道氏


 ATOUNは、「着るロボット」の専業としてはおそらく世界初のメーカーではないかと思ます。我々は、「着るロボット」を社会実装することで、年齢・性別にかかわらず働けるパワーバリアレス社会を実現したいと考えています。

 モーターで腰を支えるパワードウエアとして、2015年にMODEL Aを発売し、2018年7月により軽いMODEL Yを発売しました。空港でスーツケースなどの荷物を扱うJALグランドサービス、送電線を設置する九州電力の子会社など、重い物を運ぶ作業に導入されており、2020年3月までに1000台程度の売り上げを見込んでいます。今後は、農業や介護への普及に力を入れたいと思っています。また、腰だけでなく、腕の補強機能も開発中です。

 「SFの世界を早く見たい」という気持ちから、ロボットの開発に関わるようになりました。特に、2000年頃から、高齢化による労働人口の不足や、eコマースによる物流量の増加を予測し、「着るロボット」をつくりたいと考えていました。「想像できるものは創造できる」が、今も変わらない私の信念です。しかし、そのためには、人・モノ・カネを回さなければなりません。2003年にパナソニックの社内ベンチャーとして出資を得て創業し、全身タイプのパワードスーツをつくりました。これを発信し、実績ができました。2006年には、空気圧式のゴム人工筋を使った脳卒中片まひ者用のリハビリテーション用着るロボットを開発しました。MoMA(ニューヨーク近代美術館)で工業デザインコンセプトが展示されるなど高い評価を得ましたが、製品化には到達できませんでした。

 2008~09年にかけて、医療から産業支援にフィールドを移し、物流や工場などで利用される”着るロボット”パワードウエアの開発を進めました。近年は、ゴムやバネなどの反発を利用したサポーター系のアシストスーツも多く発表されていますが、我々は将来の機能拡張を想定し、ロボティクスを駆使した着るロボットの開発、社会実装にこだわっています。

 17年に渡るロボティクス企業の経営経験から、企業経営者や新規事業担当者にイノベーション手法に関する研修をお願いされることもあります。また、社会への働きかけとしては、もっと女性エンジニアを増えてほしいという思いから、女性エンジニアをテクノ女子と名付け、工学部構想をもつ奈良女子大学と協業したりしています。これは、高齢者や女性の活躍の場を増やしたいというATOUNの思想とも合っていると思っています。
Q&A
Q:経営セミナーはどういう形でやるのでしょうか?
A:成功した人を講師として呼びますが、必ず失敗事例も話してもらいます。成功は運がからみますが失敗はまねできるので。いちばんやりたいのは、既存企業の新規事業を支援するしくみをつくることです。商工会議所などがやっていますが、しくみだけつくって、何をやるべきかは相手任せなので、機能していません。既存事業の見方をちょっとずらせばいいので、それを教えたい。イノベーションとは、見方を変えることなのです。

Q:コアコンピタンス経営は陳腐化しやすいのでは?
A:ATOUNのコアコンピタンスはアシスト制御技術というよりも、思い描くSFの世界にむけた取り組みや、そこから得られるノウハウで、むしろ社風に近いものだと思います。プロダクトは、売り出した途端から競合になるので、目の前のプロダクトを否定するところから開発は始まります。ですから、開発に関しては、ゴールはいつまでも先にあり、ずっと続いていくなぁと感じています。
パネルディスカッション
藤本氏、古川領域統括、ほかコンビファブメンバー

1.藤本氏の基調講演を巡って
古川:藤本さんのプレゼンで「最初は大学と組んで人を雇わずに開発をしていたが、ほんとうに事業化するときは後には引けない状況に行かれた」と聞いて、我々はどこまで行けるのかと感じました。皆さんの気づきは?
黒瀬:コンビファブでも、仮にATOUNさんの製品をターゲットにすれば、3Dプリンターの生産速度、構造などを実際に検討できると感じました。
西川:パワードウエアの開発では、実際につくりたいものとコストやデザインの制約との折り合いをどのようにつけたのでしょうか。
藤本:ニーズを調査し、提供する価値を想像し、いくらであれば導入できるかという値段を決めました。ぎりぎりほしくなる機能を詰め込んでいますが、原価は積み上げず、市場価値からみて、値段を決めています。
西脇:アウトソーシング先を選ぶときの視点は?
藤本:シーズをどうにかしようとは考えません。ニーズからみて、必要なことをやっている人を探し、いないときは組み合わせを考えたり、過去にやって実装されていないモノの復活をすることもあります。私は演出家のようなものです。
硯里:パワードウエアには疲れを検知するという機能もありますが、当初から組み込むことを考えていたのですか?
藤本:疲れの検知はたまたまできるなと思ったのですが、もともと1つの部品で2つ以上のことをしようという発想はありました。コストが有利になりますから。1軸しか回らないモーターで2軸をコントロールするというようなことを無理と思わないように心がけています。
硯里:みんながパワードウエアを装着する時代が来るとして、ファッションや、コミュニケーションツールとなるのでしょうか。
藤本:今は第2世代ですが、第5世代では、パワードウエア同士が、あるいは、他社のロボットとコミュニケーションすることを考えています。声をかけなくても2人で机がもてる「あうんの呼吸」を目指していますので。
水上:パワードウエアは、コンセプトが優れていると思います。ニーズに対する優れたコンセプトをいかに見つけ出し、イメージ化して、それをつくるのかが資金調達につながると感じました。
古川:藤本さんの助走期間が長かったことを知りましたが、良いモノを生み出すために必要だったのでしょうか?
藤本:助走期間はないにこしたことはないです。うまくいかなかった件のあとも、技術は変わっていません。3割ぐらいしかうまくいかないことを前提に計画するので、失敗しても心が折れることはありません。
2.コンビファブのあり方を巡って
川上:古川研では、ゲルの3Dプリンティングに微細加工やセンサーなどを加えて、たとえば、汚れた皿を1枚ずつ動かせるロボットの指先、医学部の実習用モデルなどを製作しています。3Dプリンターの数、種類、ノウハウが集積していますが、共同研究は素材メーカーが主で電子回路部分の組み合わせに関しては開発が進んでおらず、最終製品を想定した開発も進んでいません。
水上:ニーズを掘り起こした上で、メーカーに接触すれば、コンビファブでつくってみようとなるのではないでしょうか。
硯里:研究室もコンソーシアムも、メンバーはいろいろな分野の人材が必要だと思います。リーダーシップでまとめ、藤本さんの話にあった理念、ビジョン、イメージの共有が必要だと思いました。
古川:大学には理念を共有しようというミーティングがありませんね。
西脇:大学は知の集合体なのだから、「電子の知識がないからダメ」というところで止まらないほうがいいのでは?
古川:横の連携をするためには、相性もあるので仲人役が必要ですが、現在の大学にはそういう人がいないのが問題です。
藤本:映像、アートなどで科学技術を説明してはどうでしょうか? 女子高生がみておもしろがるぐらいのものとか、六本木ヒルズで、研究じゃないといって研究を説明するとか。
西川:私はセンサーが得意なので、たとえば、古川先生の指のデバイスにどんなセンサーをつけたいかを早く言っていただければ、協力できると思います。
古川:やはり演出家が必要ですね。
黒瀬:最終製品メーカーと話してニーズを拾えたらいいですね。藤本さんもすごく先の世代まで考えていることがわかりましたが、必要な技術はなにかと考えている技術者とコミュニケーションしたいです。一方で、素材を使えそうないちばんいい技術を宣伝してお客さんを呼んでくるのもありだと思います。
古川:ただ、「こんなこともできる」と風呂敷を広げすぎると、大学では引き受けきれないような話がくることもあるので、大学の営業のあり方はむずかしいです。
黒瀬:類似技術との比較を客観的に示せればいいのではないでしょうか? 会社の人は比較して決めるので。
藤本:ATOUNはニーズ志向のふりをしたプロダクトアウトで、プロトタイプもプロダクトも内外の人との議論を生み出すコミュニケーションツールという側面があります。そういう目で見ると、大学の資料は、技術を把握するのが難しいです。たとえば、古川先生のゲルの指だったら、汚れた皿でなく、ウナギをつかませてはどうでしょう?見る側がニーズを広げられると思いますよ。もっといえば、紙媒体でなくデータで動画が入っているとうれしいですね。世の中の人は忙しいので、一瞬で把握できるモノがいいと思います。
古川:まとめると、みてすぐわかる宣伝・営業と、コンビファブでなにかを作りたいと思う張本人あるいは演出家が必要ということですね。
今日はたいへんいい議論をありがとうございました。