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2020/02/05(水)

2019年12月26日、山形大学工学部11号館未来ホールにおいて、「やわらかものづくり革命共創コンソーシアムCNVFAB(コンビファブ)第10回勉強会(講演会)を開催し、JSR株式会社様より「DLS技術とラティスが実現する未来ものづくり」と題して、Carbon事業推進部 主査 銅木克次氏からご講演を賜りました。
演題「DLS技術(*1)とラティス(*2)が実現する未来のものづくり」
    JSR株式会社 Carbon事業推進部 主査 銅木克次氏
●米国カーボン社と提携し、画期的な3Dプリンター事業を日本で推進●
 JSR株式会社は、旧社名を日本合成ゴムといい、合成ゴムの国産化を目指して1957年に設立された国策会社です。1960年に国産化に成功して以来、合成ゴムや樹脂などの石油化学系分野で培った独自の高分子技術をもとに、半導体やディスプレイなどの新たな材料の開発・製造を手がけてきました。そして、フォトレジストなどの光造形を手がける中で、米国ベンチャーのカーボン(Carbon)社の3Dプリンターの技術に着目し、3年半前から出資して、日本でのビジネスを展開しています。
 カーボン社は、設立して7年目ですが、すでに6.8億ドルを超える資金を集めています。3Dプリンター本体や3Dプリンターで用いる材料やソフトウエアの開発およびその製造販売を手がけており、特許登録および出願件数は300件以上を誇っています。
 一般に3Dプリンターの応用はまだ限られており、補聴器などいくつかの製品を除いては、ほとんどが試作品の製造に限られています。そんな中、アディダスのランニングシューズ「Futurecraft 4D」のミッドソールは、カーボン社の3Dプリンターを使って製造されており、2018年には世界で10万足が生産され、2019年には100万足が生産される見通しです。
アメリカをはじめヨーロッパ、アジアなど事業をグローバルに展開中で、前述のアディダスの他にも、ジョンソン・アンド・ジョンソン、BMWなど世界の名だたるメーカーが資金を投入しています。
 
●カーボン社の3Dプリンター技術の特長●
 3Dプリンターには様々な方式がありますが、「熱方式」と「光方式」が一般的です。「熱方式」は樹脂を加熱して軟らかくして積み重ね、固めていく「FDM(熱溶解積層)」が代表的です。しかし製造物の性質が方向によって異なる“異方性”が生じる、空孔ができやすい、解像度が低いなどの問題があります。一方「光方式」では、紫外線(UV)硬化性樹脂に紫外線を照射し一層ごとに固めながら造形する「光造形法」が一般的ですが、熱に弱い、脆いなどの欠点があります。
 カーボン社の3Dプリンターは「熱」と「光」を併用することによって、両者の弱みを補完しているのが特長です。さらに、Carbonは「DLS(Digital Light Synthesis:デジタル光合成)プロセス」と呼ばれる独自の光造形技術を開発し、酸素濃度を制御することによって素早く製品を製造することに成功しています。
 具体的には、底に酸素透過性の窓のついた容器に、まず液状のUV硬化性樹脂を入れます。そして、この窓を通して紫外線を照射して固め、固めたものを引き上げて造形していきます。酸素を通す窓があるため、酸素濃度が高くなると樹脂が硬化しない「デッドゾーン」と呼ばれる、髪の毛の3分の1ほどの薄い未硬化層が底面にできます。そのため、引き上げながらの高速かつ連続した造形が可能で、従来の積層造形方式とは異なり、完成した造形物に積層痕がなく、表面の仕上がりは非常に高品質です。その後、恒温槽で熱硬化を行い、強度を付加し、機械的特性もつくり出します。まさに、「光で形をつくって、熱で物性を付与する」仕組みです。
 使用する樹脂は、カーボン樹脂ではウレタンが中心です。その他にもDLSプロセスに対応した独自に開発した樹脂が10種類以上あります。材料を変えることで、スピード造形や耐久性、弾力性、耐熱性などのニーズに対応することができます。


●ミッドソールの自在なラティス構造を実現した「ラティスエンジン」●
 カーボン社の代表するソフトウエア技術が、必要とする「ラティス(格子)」構造を自在につくり出すことのできる「ラティスエンジン」です。ラティスは“線の細かさ”“セルの形”“セルの大きさ”の3種類のパラメータで出来ています。これを制御することによって、多種多様なラティス構造を単一の材料でつくり出します。一般的なラティスエンジンでは、ラティスの構造とその特性との関係を判断するのに、かなりの時間を必要とし、判断ミスも多々あるのですが、カーボン社のラティスエンジンでは、瞬時に正確に判断することができます。
 以下にこのラティスエンジンを使った製品例を紹介します。
(1)アディダスのランニングシューズ「Futurecraft 4D」のミッドソール
 単一の材料でつくられていますが、つま先からかかとにかけてラティス構造を変えていき、エネルギーの反発を生み出す部分、足をしっかりとホールドする部分、スムーズに曲がる部分など、ミッドソールの部位ごとに異なる物性を実現しています。
(2)リデル(Riddell)社のヘルメット「Riddell SpeedFlex Precision Diamond helmet」
 NFL(プロのアメリカンフットボールリーグ)の選手が着用するカスタムヘルメットのライナーをカーボン社のラティスエンジンで設計しています。このライナーは14万を超えるストラット(柱)から構成されたラティス構造となっています。選手の頭部の3Dスキャンデータと、ポジションやプレースタイルなどの条件をインプットすると、1000種類以上の選択肢がシミュレーションされ、選手ごとに最適なライナーが選択されます。このカスタマイズされたライナーは、さまざまな衝撃エネルギーを制御し、効果的に減衰させることができます。
(3)スペシャライズド(Specialized)社の自転車サドル「Sワークスパワーサドル」
 高い弾性と特性保持力を備えた材料を使い、サドル内部のラティス構造は14000を超える個々のストラットで構成されており、各ストラットは座るときにライダーがかける圧力を軽減しています。
(4)日本の眼鏡メーカー「JINS」のハイエンド層向けのブランド「J of JINS」のサングラス「Neuron4D」
 眼鏡の弦の内側にラティス構造を施しています。格子をつくる線が先端に行くにつれて0.8mmから0.6mmへ段階的に細くなっていき、それに合わせて徐々に軟らかくなっています。この設計により、締め付け感のないかけ心地を実現しています。また、フレームと顔の間に空間も生まれるため、通気性もよくなっています。


●カーボン社の3Dプリンターで「ものづくり変革」が起きる●
 3Dプリンターにより、生産・製造にかかる時間が短くなるのはもちろんのこと、その改良や修正も高速・高頻度にできるようになり、迅速な検証も可能になるので、圧倒的に製品開発スピードが上がります。例えば、アディダスのランニングシューズ Futurecraft 4Dは従来の10倍ものスピードで開発されました。また、アメリカのフードマシーンメーカーのバイタミックス(Vitamix)社の洗浄ノズルは、これまで6部品を組み立てつくっていましたが、カーボン社の技術で一体成型でつくれるようになりました。その結果、部品を組み立てる手間が省け、耐久性は10倍に、コストは3分の1になりました。このようにCarbon社の3Dプリンターによって、ものづくりに大きな変革が起きているといえます。
 また、3Dプリンターがこれからもっと実用的になっていけば、必要なものを必要な場所で必要なだけつくれるようになるので、材料や製品を大規模に運ぶ時代は終わりを告げ、飛ぶのはデータだけという時代になるのかもしれません。
 「3Dプリンターによってものづくりと物流が変わる」、カーボン社はその大きな一歩を提供していると思います。

*1:DLS;Digital Light Synthesis(デジタル光合成)。2013年創業のCarbon社が開発した3Dプリント技術の1つ。酸素透過性のウィンドウを介して、光をUV硬化樹脂に照射して固化させ、漸次プラットフォームを引き上げながら造形する。高酸素濃度では、樹脂硬化しにくい特徴を活かして、ワーク底部分がウィンドウに固着せず、浮いた状態で固化できるため、高速連続造形可能で、仕上がりが高品質。
*2:ラティス;2017年Carbon社が開発した3Dプリントソリューションは、ユーザー条件に最適化された3Dラティス構造を自動的に生成。*1*2により、最近ではアディダス社の3Dプリントスニーカー等が市販されつつある。